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 ブラジルで女性大統領が誕生した。そのニュースを見ていて思わず「○○さんにそっくり」と大きな声を上げた。傍で見ていた妻も認めたから、自信はある。その時以来○○さんが薬局に来ないかなあと手ぐすね引いて待ったいたら、昨日買い物にやってきた。会計が終わるやいなや「ブラジルで今度大統領になった女性をテレビで見たことある?」と尋ねてみると「ブラジルなんか、遠くて滅多に話題に乗らないから知らないわ」と答えた。見たことがなければ臨場感がないから、出鼻を挫かれてしまった。が、そこで話を止めるわけにもいかないので「その大統領○○さんにそっくりよ」と感想そのままに言うと「そんなに似ているの」と答えながらハハハと笑い声が続き、顔もしっかり声に負けず笑っていた。「本当にそっくりよ、○○さんて、意外と上品なのかもしれないなあ、ええとこの出ではないの」とたたみかけると「そんなわけあるもんですか」と答えながらも笑い声が一段と音量アップされた。顔だけでなく身体でも笑い始めた。「そうなの、そんなに似ているの、あらまあ・・・」挨拶をしたのかしなかったのか定かではないが、記憶では独り言を言いつつ笑いながら帰っていったような気がする。恐らく○○さんにとっては心地よい会話だったのだろう。  以前これとは逆のケースがあった。それこそテレビの歌謡番組を観ていて天童よしみと言う歌手が出てきたとき「△△さんそっくり」と、今回と同じケースの経験をした。そしてそれこそ△△さんがやってきた時、おもむろに天童よしみに似ていると持ち出しのだが、歌手だから喜ぶのかと思いきやひどく落胆された。声量もあり、歌も上手いし、見方によれば可愛いところもあるので喜ばれると思ったのだが、裏目に出てしまった。痩せる漢方薬を飲んで頂いていた方だから、天童よしみの体型がいやだったのか、あの顔がいやだったのか分からないが、喜ぶどころか顔を歪めて不快感を露わにされた。それ以来似ているという言葉は封印していたのだが、○○さんが大統領と余りにも似ていたので今回封印を解いた。でも考えてみれば、ブラジルの大統領は決して美人でないから、実際にテレビで見たときにどう思うだろう。又してもひんしゅくを買うだろうか。でもまあ、顔を歪めた女性も以来2週間に一度正確に漢方薬を取りに来るし、美味しいコーヒーを一緒に飲んだりしているから、歪んだ顔も緩めてくれているのだろう。僕は思ったことをそのまま加工せずに口に出すから、全部本心だ。もっとも逆説も多いから相手は困ることもあるが、○○さんも△△さんも恐らく吉瀬美智子に似ていると言った方が裏を読まれ信頼を傷つけていただろう。言葉を加工した缶詰なんてまずくて食えない。