勇士

 支柱を伸ばして立ち上げるのを待つだけのテントが数組。南北に作られた入場門と退場門。足跡さえ消されたトラックに何本も引かれた白線。あとは、観客席を埋める父兄達と整列する生徒達がこの空間を埋めれば、運動会が始まる。その前にちょいと贅沢な朝を横取りした。  校舎から垂らしたスローガンが目に入った。「輝け未来の勇士達」運動会用のスローガンなのだろう、昨日までは気がつかなかった。なんとなくしっくり来ない。ツバメも戸惑って十数羽が秩序を失って飛び回っている。未来の勇士とはどんな意味なのだろう。僕にはさっぱりイメージできない。何かと戦っているのだろうか。よその国と戦っているのだろうか。貧困と闘っているのだろうか。自分と戦っているのだろうか。大きな不正と戦っているのだろうか。そもそも戦わなければならないのか。戦うのは若者の使命か。戦わなければ意味を成さないのか。戦って勝たなければならないのか。  そもそも輝けと言われても、光を当ててくれる太陽がこの社会にも必要だ。光源がなければ輝きようがない。光り輝く人格をここ彼処に見つけることは難しい。勇士を欲しがる社会は重たい雲が覆い、光源はますます萎縮する。必ずしも過剰が不足を凌駕するとは限らない。色あせた未来に必要なのは勇士ではなく、落ちこぼれた純情なのかもしれない。