東福山

 パートの後もほとんどの誘いを断って、ひたすら家路を急ぎ、夫や子供の世話に没頭してきたのに、夫は外に安らぎを求め、子供は自分の世界に閉じこもる。そこまでやっているのに、ちょっと手を抜けば怠け者だと罵られる。どんな教育を受けてきたのか知らないが、そこでぐっとこらえるそうだ。薬局に入ってきた時から、鬱々とした空気を引きずっていた。町中の鬱々を従えて入ってきたようなものだ。おとなしくて上品そうなのはすぐ分かる。でもその長所こそが大いなる欠点であり、弱点なのだ。鬱々も一線を越えると鬱になる。そうなれば病気だから今のうちに防がなければ。鬱々なら日常のごくありふれた心のありようだ。  今までは込み入ったことは話さなかったが、今回は向こうから話したがっていた。一線を越えることが予感されたのだろう。そんな言葉も本人から出た。  僕の助言はいつも決まっている。「別れろ」心が切れて、寧ろ憎しみさえ覚える人と一緒にいる必要はない。堪え忍ぶことが美徳でもない。江戸時代ではないのだ。お子さんのために別れられないらしいから、金を運ぶ宅急便くらいに思っていればいいと助言した。年も50で背も低く頭も薄くなったらしいから、そんな人に魅力が今だ残っているはずがない。再放送でも見入ってしまうと言う福山雅治に恋をすればいいのだ。あれ以上のは滅多にいないだろう。99.9%の男がつまらなく見える。旦那に未練など残るはずもない。これからは今まで自分が選択した反対を選択するようにも言った。全く逆の生き方をすればいいのだ。もったいないもったいない。心ここにあらずの夫に耐えて尽くしてなにになる。 ある人が翻訳していて誘惑にするべきか試練とすべきか迷ったらしい。落ちていくのが誘惑なら、乗り越えるのが試練だろうが、僕ら凡人はかたぐるしく考えて全て試練などと解釈する必要はない。これからはまるで冗談のように生きてほしい。そうすれば福山雅治から声はかからないかも知れないが、東福山雅治くらいなら声がかかるかも。(広島県以外の人は分からないかも知れないが、福山の隣は東福山なのだ・・・ちょっとローカルすぎたかな)