冗談

 以前薬を送っていた人からメールがあり、ある資格試験に合格したらしい。試験会場ではお腹のことが心配だったらしいが、始まれば問題を解くことに集中してお腹のことは考える余裕もなかったそうだ。次の挑戦もちゃんと決まっていて、恐らくその準備にもう入っているのではないかと思う。  テレビの映像で偶然見る機会があるくらいの遠い地で、懸命に生きている人がいる。無数の人の中から拾った大切な小さな石をいくつも僕はポケットにしまっている。商店街を歩くとき、電車に乗るとき、車に乗って橋を渡るとき、ふとまだ知らない人のことを思う。澄み切った秋の空は幸せ人を連想させ、曇天の空は失意の内に部屋に閉じこもる人を連想させる。  笑顔が少なく、いつも何かと戦い続けている人に笑いを届けたい。身体から力が抜ける瞬間を味わってもらいたい。緊張を強いられている人に、一瞬の隙を作ってもらいたい。強固な守りを固めても、攻めるのと同じ緊張を強いられる。戦いを一瞬でも忘れてもらいたい。  空腹で倒れる人に届けるものを持ってはいない。渇きで倒れる人に届けるものを持ってはいない。寒さで凍える人に届けるものを持ってはいない。爆弾で飛び散る人に届けるものを持ってはいない。大きなものは何も持ってはいない。志は振ればカラカラと空虚な音がする。ただ僕にあるものは、破れたジーパンやTシャツに似合うほつれた冗談。三角に笑って四角に泣く。