集落

 何もない一日が指の間から抜け落ちていく。机の端に積まれた専門誌が、今日も低くなることはなかった。正午にサイレンが鳴った。なかなか近づきもしない、遠ざかりもしない消防車が不思議だった。家の奥で誰かが頭を下げていた。  鏡に映る逆転に、ついうとうとしていた。天井から冷気が降りてきて、秋風よりも疲労を先取りしている。山の中腹から祖父母が帰り父が帰る。夜光虫が跳ねる海面は手を伸ばせば触れるほど膨満し、生ぬるい風が月を揺らす。  線香が匂う集落を人も去り仏も去る。飼い犬があてのない遠吠えをする。ずっと空はそこにあったし、海はそこにあった。変わらない中で、小さすぎる営みだけが息を切らせて駆け上る。禁じられた煙突の下で昭和は横たわる。