宗教

 酒と博打で全てを失った男が、ある宗教施設に出入りしているので何故だろうとずっと気になっていた。今日、その施設の奥さんが買い物に来たので思い切って聞いてみた。  どう呼べば正しいのか分からないが、その施設の建物(教会?)を新しく立て替えたときに、行き場のない人を助けるためにちゃんと2部屋用意したらしい。ある人に頼まれて男をそこに住まわせているらしいから、出入りしているのを目撃するのは当たり前だ。改心して自ら門をたたいたのかと、かすかに期待していたが、やはり誰かの世話で身を寄せているというのが真実らしい。2年前、男が最悪の状態になったときに、救いの手を差し伸べて、本部までわざわざ勉強をさせに行かせたらしい。その後はずっと、建物の中で暮らし、朝はお勤め、その後は雑用をしてもらっていると言っていた。食事は教団の指導者家族と一緒に食べているという。家族も友人もご近所さへ失った男にとっては、疑似家族だ。男が更正できるのかどうか分からない。ただ、その指導者家族は、おおらかに包み込んでいるだけのように見える。余程懐が深いのだろう。大の大人だから強制は出来ないと言っていた。多くの自由を与えていた。それに男が何を持って応えるのか分からないが、裏切らないでほしい。  僕はその宗教の教義を知らない。指導者が教義に則って行動したのか、あるいは個人の人徳か知らないが、おおらかに歯を丸出しで笑いながら経過を教えてくれる奥さんの印象で、そんなものどちらでもいいような気がした。根っからの善人って、世の中には結構いて、その人達特有の無警戒な笑顔にいつも圧倒される。計算のない表情に「参った」の連続だ。  何を隠そう、その男は僕の友人だ。