島唄

 先日、はるか南の島から、紫雲膏という漢方の塗り薬を作るから、材料を送ってくださいと電話があった。海と唄の島って、勝手に僕がイメージしているだけなのだが、薬の注文を受けただけで心がときめいた。今頃その人は完成させて、手製の薬を楽しんでいるだろうか。作った薬を試したくて、ヤケドをしたか、すり傷を作ってみたか、痔になってみたか。 僕も今日作り置きの在庫が無くなったので、子供に作ってもらった。今までは僕が作っていたが、作り方を経験しておいて欲しかったから、レシピを渡して作ってもらった。ごま油が香り、薬局に買い物に来る人達に今日は好感を持ってもらった。「あ、ゴマの香り」と、すぐさま言い当てる人も何人かいた。特に最高のごま油を使っているから、いい香りがしたのだろう。いつもは、「漢方臭い」の方が圧倒的に多いのだが。  今までは、必要なときに調剤室で小さな缶に入れて分けてあげていたが、今回から店頭に陳列することにした。なんてプライスカードに書いていいかインターネットで調べてみて、驚いた。どんなにすばらしい軟膏か、あらゆる言葉を引用して宣伝されていた。何にでも効きく。アトピーみたいに難治性のものには、最優先の外用剤。ステロイドに優る。ステロイドの副作用が心配・・・・売るためには、法律すれすれの言葉が並ぶ。江戸時代に出来た薬に、ロマンを感じるのはいいが、現代科学を否定する為に利用してはいけない。数え切れない恩恵を受けている現代薬を、商売のために否定してはいけない。紫雲膏には紫雲膏の守備範囲がある。薬局には薬局の守備範囲があるように。  カリスマ薬局は日本中にいっぱいあるのに、何故南の島の人が僕に言ってくれたのかは分からない。僕の空想するその島で、僕の想像する女性が、ゴマ油に生薬を落としている姿は絵になる。自然な薬だから、唄が風に乗るという島に住む、純朴な人に使って欲しい。