自由

 誰もいない夜、ラジカセのボリュームをいっぱいにし、テイクファイブを薬局の中に響かせる。ボリュームを上げる ボタンを押し続けることが自由の証なのだ。どのくらいの大きさにしようが、どの曲を聴こうが、自由なのだ。こんなちっぽけな、気ままと間違えそうな自由さえ、楽しむこともなかったと思う。  何に追われているのか自分でも分からない。いや、追われてなんかいないに決まっている。もし追っているものがあるとしたら自分自身なのだ。自分を後ろからむち打っている自分が見える。どこに行かそうか、何を得さそうか、分かっていない自分が追いかける。たどり着くところさえ知らない自分が、進み続ける。もうこの辺りでいいではないかと、背負っていたリュックを置く勇気もない。立ち止まることが失うことだと勘違いしているのか、歩みを止めることに臆病だ。  夜が僕をひとりぼっちにする。テイクファイブの大音量が破るのは昨日までの僕ではなく、明日からの僕でもない。自由を縛る不自由な僕の精神なのだ。