娘が今やっとメールの返事を終えたので、僕がパソコンを使えるようになった。栄町ヤマト薬局で、丁度1週間娘が仕事をしたことになる。さすがに日本で一番大きい調剤薬局で鍛えられたお蔭で、病院の薬を作るのはなかなかたいしたもので、落ち着き払って対処している。そして薬を患者さんに渡す時にとても丁寧に、親切にしている。僕の薬局では見られなかった光景だ。技術だけでなく、接客も学んでいたのだろうか。若い薬剤師に親切にしてもらって、患者さんの顔が自然にほころんでいる。  僕が漢方薬やOTC薬で患者さんを応対した後、出来るだけ、その病態と処方を解説するようにしている。娘は必ずそれをメモしている。10年近く離れていたので、どのような性格になっているのか完全にはつかめていなかったが、その真摯な態度に親ながら感心する。いつのまにか、後を継ぐ覚悟をしていたのだろうか。薬剤師だから就職はいっぱいあり、大手にいれば心配はないだろうが、あえて、田舎の薬局に戻ってくるのだから何かの秘めた理由はあるのだろう。  今日、僕が昼食で2階に上がっていた時、皮膚病の患者さんが来たらしい。僕を呼ばずに、自分で薬を選択し渡している。僕に病変と処方を説明し、あっているかどうか確かめた。数日前の夜に講義していた内容そのものだったので、僕を呼ばずに薬を出したらしい。僕が牛窓に帰ってきたのも丁度娘と同じ年令だ。僕は支店を任されて、母と一緒に仕事をしたが、何もかも手探りだった。お蔭でヒステリー球にかかり苦労した。でもそれが漢方薬の効果を認める大切な出会いだった。娘はもうパソコンを使って、僕が13年間担当してた処方箋の打ちこみと言う作業も自分でやり始めた。若い人の能力に、いや、やる気かな、それに驚いているばかりの1週間だった。それに引き換え、僕ら年配の薬剤師の醜さや、拙さに我ながらうんざりする。3人の若い薬剤師と接したこの1ヶ月の内に一番見えたのはそれだ。やはり鏡がなければ自分は見えない。栄町ヤマト薬局には、内面まで映る鏡がなかったのだ。