権威

 これだけ息子と話したのは、おそらく10数年ぶりだろう。彼が中学を出てからおそらくこんなにゆっくりと同じ空気を吸った記憶はない。近隣に行きたい高校がなかったので、遠くの高校の寮に入った。だから高校生になってからほとんど会話をしていない。そんな選択が彼にとってよかったのか悪かったのかは分からない。いつも幸せを願っていたけれど、親として正しい判断を常に下せたかは分からない。  彼が将来について漠然とだが語ってくれた。初めてのことだ。社会人になった彼に、親として出来ることは干渉しないことだと決めていた。寂しいけれど自由ほど価値のあるものはないから。だから自発的に話してくれたのは、まさに青天の霹靂でとても嬉しかった。社会的な貢献はとうに僕を超えていると思うが、人間的にも成長しているのだと思った。奄美大島にいきたいと言っていた。ドクターコトーの影響かどうか知らないが、彼もそのテレビを見ていたらしい。僕が、岡大を1日で辞めたように彼にも反骨精神はあるのだろう。そのあたりは似ているのかと思った。権威が好きで、権威ある人をあがめたり、自分で欲しがったりする人間でないのが、頼もしい。もしそんな人間だったら、親子でも許し合えないと思うから。