処方箋

 いつもは、奥さんが車から降りて、病院の処方箋を持ってはいって来る。処方箋はご主人のものだが、奥さんしか入ってこない。今日は薬が変更されていたので説明しようと思ってご主人に入ってきてもらった。長い間薬を飲んでいるが一向に効いているふしはない。  僕はご主人の症状を聞いているうちに、なにか大きなストレスが隠れているのではないかと思った。処方箋にしたがって薬を作り渡すだけでいいのだが、何故かご主人が色々なことを話してくれた。いかに自分が地域の為に身を粉にして尽くしてきてかをまず語り、半年くらい前に紛争ガ起こり地域の融和が崩れた事も教えてくれた。その話に入ったとたん、思わず声が詰まり目から涙がこぼれた。70歳を大きく越えている人の涙に僕は驚いたが、そばにいた奥さんはもっと驚いたらしい。それまでは主人を神経質の一言で済ましていたが、涙を見たとたん奥さんも涙を流し始めた。普段ご主人をこき下ろしていたが、ご主人のプライド、潔癖さを僕が誉めたのを見て少しは見なおしたのか、でしゃばって喋るのも止めた。  多くの人と接する機会が僕にはある。中には、手を抜かずに人のことにも自分の仕事にも全精力を傾ける人がいる。手を抜くことなんかとても出来ず、自分を蝕みながらでも頑張る。この人達で色々なものが持っているのだろうと思う人達だ。とてもよい個性で大切にしたい。僕は、彼らが自分の体を蝕まないようなお手伝いをし、その人達が終生現役で人のために尽くせれるようにお手伝いしたいと思っている。ただ、病院の処方箋を持ってくる人には、何らお手伝いが出来ないから指をくわえてみているだけだ。