半額引き

 僕は買い物が苦手だ。だから僕の財布の中にはお金は必要なくて、硬貨が幾枚か入っていて、運がよければ千円札が数ヶ月使われることがなくそのまま留まったりする。  夜の10時を回った頃のスーパーでは、独身男性が、売れ残り、半額になった弁当を物色する姿が目に付く。若い独身者ならなんともない光景だが、中年を過ぎた見るからに一人者の男達の慣れた買い物姿は、哀愁を帯びている。これは他者の勝手な想像かもしれないが、とても自由を謳歌しているようには見えない。食事は作らなくても3食手に入り、洗濯はコインランドリーで主婦よりきれいにしてくれるが、束縛を拒否し、自由を、きままを選択した確信犯のように、格好良くは生きれない。  僕もポケットの中のお金と相談しながら、人がまばらな店内を徘徊する。まるで同類のように見える人達に、勇気付けられて、客が少ない店内を徘徊する。見るものが全て珍しくて、感激ものだ。買い物は苦手でも、夜のスーパーは好きだ。決して勝者にはなれなかったような人達や、勝者になれそうもない男達が、籠を持って命の値札を「半額引き」に張り替えようとしているから。