単刀直入

 80歳を越えている男性と70歳代の女性が偶然薬局で出くわし「お久しぶりです、お元気ですか」と予期せぬ出会いにお互い喜んでいた。二人とも結構頻繁に薬局を利用してくれる人だが、僕の薬局で一緒になったことは今までにない。喜ぶ二人を見ていてどういったつながりか不思議だった。
 そこは田舎の薬局の特徴で「いったいどんな関係なの?」と単刀直入に尋ねた。遠慮なんてない。興味深いから素直に尋ねた。すると小学生時代の先生と生徒の関係だった。男性のほうは、僕にとっては凄腕の元不動産屋で、女性のほうは口から先に生まれた人のよい田舎のおばちゃん。先生と生徒と説明されてすぐには納得できなかった。
 学校の舞台は、牛窓町の隣の町で、当時は〇〇村と呼ばれていた。小学校の先生だったと言うが、資格があったのと当然のように尋ねた。すると当時は戦後の混乱期で、大学や師範学校に行っていなくても、〇〇は頭がいいと言う評判だけで先生になれたらしい。驚くことに志願したのではなく請われて先生になったらしい。
「そんなに頭が良かったの?」
と当然僕はそこでチャチャを入れる。
「そりゃあ高校生の頃は、よう勉強したもん」
「何を教えていたん?」
「小学校じゃから全部、でも、勉強なんか教えんかった。川へめだかやどじょうを捕りに連れて行ってただけじゃ。こっちも19歳だから遊びたいもん 」
「本当よ、勉強なんかせんかったわ」
「そのせいで、〇〇さんがこんなになったんじゃろう。よう、お詫びを言っておかんといけんよ」
「でも、あの頃はよかった。親が何も言ってこんかったから」
「そりゃあ、頭がいいから親が任せてたんでしょう」
「そうか目の前に無資格教師と、その犠牲者がいるんか」
・・・・・・・・・・・・・
 古きよき時代かどうかは分からないが、恐らく戦争で負けて何もなかった時代に、高校生上がりの先生と田舎の子供たちのまるで映画のような日常が繰り広げられていたのだろう。自国を破壊し自国民を殺したやつらを追及することを忘れて懸命に生きた人々のおかげで、汚部は生きながらえている。そして今又政治と言う凶器を使って自国民を脅かしている。