模索

 正直、この年齢でこんなに忙しくなるとは思ってもいなかった。人口がどんどん減っていく岡山県南唯一の過疎地で何とか生き抜いていこうとがんばってきたが、結構それを叶え、持続させるのはしんどい。想像以上と言っていい。いつか親しい県会議員が、僕の薬局が潰れないのは岡山県の七不思議と言っていたが、医院の門前ではない薬局が残っているのは本当に珍しいと思う。時に漢方を標榜している薬局もあるが、そうしたところは処方箋調剤をあまりしていない。ところが僕の薬局は処方箋の薬も結構作っていて、娘夫婦が休日も出てきて仕事をするくらいだ。そのせいで漢方薬はほとんど手伝ってもらえない。よほど患者さんが重なって薬局内が混乱してくると手伝ってくれるが、こちらも気が引けるからなかなか手伝ってとは言えない。隣にドラッグストアができても、隣に調剤薬局ができても、隣に漢方薬局ができても潰れない薬局を目指してやってきたが、それはもうできたと思う。むしろすでにキャパシティーを越え始めていて、今回の年末の休みも従来より2日余分に取った。本来なら31日まで働いているのだが「もうもたない」状態になって娘夫婦が決断してくれた。それより1ヶ月前から、夜の7時から電話も鳴らないようにしてくれた。それまで僕はどんな時間帯でも相談に乗っていたが、仕事中に気を失いそうになって2階に避難するようなことが続いて娘が留守番電話をセットしてくれた。相談してくださる人には申し訳ないなと思いながらも、ぞれによる健康への影響は結構大きくて、夜電話の音がしないことによる緊張感から解放されて、体力が少し戻ってきた。せめてもう10年前にこのような状態になっていればアドネナリン全開で頑張れたのだが、すでに時遅しで、命が削られる危険さえ感じるようになった。これ以上患者さんが増えたら、新規お断りをするしかないと娘が方法を模索してくれているが、そんな不遜なことはしたくない。僕の恩人である漢方の先輩だった方の奥さんが、このような状況を知って「駆け抜けてください」と葉書に書いてくださったが、その方のご主人のように駆け抜けることはできそうにない。その言葉に励まされて努力してみたが、気力が足りないのか自爆寸前になった。
 半年以上、手をつけれなかった事務的な仕事を今日一日マイペースでやった。ゆっくりとした時間が流れ、でも結構能率的にこなせて、とてもよい休日になった。今日より明日がよくなることなどありえないこの年齢で、いまさらほしいものなどない。そんな中で久しぶりに包まれた時を忘れた時間に身も心も慰められた。