持ち点

 東京からやってくると必ず寄ってくれる女性がいる。と言ってもわざわざ挨拶に寄るわけではなく、薬を買って帰る。ある理由で近所に数年間住んでいた縁で、漢方薬や薬局製剤と言って、薬を作る免許を利用して作っているオリジナルの治療薬などを頻繁に利用してくれる。東京にはどうやら彼女の目にかなう薬局がないらしくて、東京に帰ってもしばしばヤマト薬局の薬を届けている。
 何処から見ても東大卒とは思えないほど、人懐っこくて、素直だ。漢方薬などしばしば作ってあげるのだが、的確な質問一つで納得し結論は早い。そのあたりの知識と理解力はさすがだなと思う。恐らく僕の薬局以外では、彼女は納得できないのではないか。何故なら僕が話す内容は、相手が医師でも話すことが出来る内容だからだ。逆を言うと事実だけ話す。僕の手に負えないようなことを知ったかぶって話すこともしないし、知識をひけらかせて物を売ったりしない。出来もしないようなことを言うと彼女は恐らくすぐに見破るだろう。
 そんな彼女に「今日はこれから倉敷にボランティアに行くのか!」と鎌をかけた。すると彼女はお墓参りに行くと言っていたが、すごい人間にはすごい親がいるもので「父が行っている筈です。この1ヶ月の間にもう何回か行っている筈です」と言った。冗談が冗談でなくなった。ただただ感心して落ちのない話になってしまった。ちなみに彼女のお父さんは大学の教授なのだが、肉体労働に徹したボランティアをしているらしい。脱帽。血は争えない。よい血が流れている人は幸せだ。持ち点が違う。プラス何十から始められる人と、マイナスから始めなければならない人間とは、追いつけない大きな差がある。本当はもっと長く牛窓にいてこの町に貢献して欲しかった人だが、彼女の力を最大限に引き出せる町ではなかったみたいだ。