重複

 所詮薬害師だから何を言っても受け入れられないが、40年人様と接し続けてきたから直感と言うものはある。今日もその直感のほうが莫大な知性と莫大なお金で作られたものより優れていたという経験をした。僕が学者ならこれを治験にまとめて発表すればそれなりの影響はあるだろうが、悲しいことに一庶民に過ぎない。影響は皆無。  2週間前に冷えを主訴に相談に来た女性がいる。冷えだけでわざわざ来る人は少ないから、よほどの冷え性だろう。身体中の冷え、特に手足の末端の冷え、ごくごくありふれた症状だ。体全体と末端を温める漢方薬を2週間分だけ出した。2週間目の今日次の薬をとりに来たから経過を伺ってみると、服用し始めてすぐに体全体が温かくなったと言っていた。僕が作った煎じ薬は、胃腸を強くして体温を上げる薬だと言うと、「どうりで6年間の、胃がつかえたような何ともいえない気持ちの悪さが治ったと思った」と言った。6年間飲んでいたという薬を見せてくれたが、例の胃酸の分泌を強烈に抑えるやつだ。プロトンポンプインフィビターと言うやつだ。老いも若きもならまだしも老人で飲んでいる人がやたら多い。老人でそんなに胃酸が困るほど出るのかと思うのだけれど、今の老人は昔とは違うのか。僕が薬局に帰って来た頃、老人は無酸症で困っていたのに。わずか数十年で体が変るのか。  最近送られてくる情報によると、プロトンポンプインフィビターの服用者は痴呆が促進されやすい、ピロリ菌除去後に続けてプロトンポンプインフィビターを飲んでいると癌の発生率が高まるなどと発表されているのに、医療機関が自重している風はない。日本は薬を飲ませて儲ける医療だから、症状が治癒した後もだらだらと飲むことが多い。そのだらだらを検証しない国も製薬会社も医療機関も薬局もおかしいと思うのだが、そう思うのはだらだら飲ませることによって利益を得られない薬局位なものか。僕が門前薬局をしていたら、いい薬だからずっと飲んでいていいですよと言うのだろうか。そうした後ろめたさを味わわなくてすむ独立を保っていてよかった。  元々物には執着しないほうだったが、この年齢になると気持ちも随分と萎えてきて、意図しなくても断捨離出来るようになる。肩書きがなくても、こういった考え方もあると提案できるようになる。強いものや大きな流れに流されないようになる。力が衰えてから強くなるとは不思議なものだ。失うものがない人の強さと同じ土俵では語れないが、少しだけ重複するところがあると感じるのは僕だけだろうか。

この場を借りて・・・12月13日は人間ドックに行きます。当日は不在のため漢方相談は出来ません。御配慮ください。