母親

 ラフな格好、思い出そうとしてもジーンズにTシャツのイメージしか浮かばない。顔にお化粧をしないから、そばかすがそのまま見える。髪は天然かパーマかわからないが少し縮れている。すべてが自然体だ。そして何より自然なのが母親としての心だ。かざりっけはないが子供を思う気持ちは強いのだろう、もう数年通い続けてきてくれる。もっとも僕の薬局が出来ることだから重病ではない。ちょっとした不都合を漢方薬で治すことくらいだ。  僕は勝手にその女性は農家の人だと思っている。根拠は服装とそばかす。重労働をこなすほど体格には恵まれていないが、何となく雰囲気があっている。いつもニコニコしている。恥ずかしそうな表情が多いのに、しっかりと相手の目を見、それでいて笑顔を忘れない。  薬局には多くの母親と言う肩書きを持った人が来る。子がどのくらいの年齢かによるが、相談も年代によって傾向がある。受験期の親が一番多いようだが、余程才能に恵まれていない限り結構皆さん力みがない。たまにすごい才能を持って受験に挑んでいる子の親も来るが、どちらかと言うと田舎の僕の薬局には少ない。  経済が要素か、学歴が要素か、仕事が要素か、暮らしている地域が要素か分からないが、結構母親像もパターン化されるが、僕はどの群の親も素敵に見える。僕が若い時にこうした女性に巡り合っていれば、この人たちの魅力に惹かれていただろうかと考えてみることも多い。何故なら年齢とともに美しさの基準がどんどんと内面に移行してくるのを感じているから。と言うことは不覚にも若い時には内面を見る力が弱かったってことだ。だからこそ長い間、その魅力に気がつかなかった人たちに今更ながらの感動を頂いている有様だ。  力んで力んで生きてきて、片手落ちでは悔やまれる。もう一方の手でつかみたい、まだ会えぬ感動たちを。