当事者

 僕の友人が、今あるレストランで手伝いをしている。何が出来るか知らないが恐らくかなりの下働きだろう。昨日西脇の海水浴場に配達に行ったそうだ。沢山の人がいて、誰に渡したらいいのかわからなかったから、近くにいた若い女性に尋ねたそうだ。「あんた、昼飯誰に渡したらいい?」と。するとその女性は分からなかったそうだ。そこで友人は「あんた、ここで何しょん(何しているの)?」と再び尋ねたらしい。するとその女性は映画のロケに来ていて、歌手か女優だと答えたらしい。名前を尋ねたらしいが彼は思い当たらなくて今日僕に尋ねに来た。「ミワと言う名前の歌手か女優を知っている?」と尋ねられたので、すかさず「 美輪明宏?」と答えたがもちろん違っていた。彼も「美輪明宏か高田美和しか知らん」と言っていたが、結局分からずじまいで話は終わった。  この話で彼が配達や買出しの手伝いをしている事が分かった。それはそうだろう、卵焼き一つ出来そうにない。酒にタバコに賭け事に、体にいいことをひつもしないのに何故かまだ生きている。僕と同じ年齢なのに、10歳は年上に見える。もちろん不健康そうにも。ところが彼はそれを逆手にとって、たくましく生きている。なんでも、駐車場では必ず障害者用の場所に置くそうだ。するとスーパーやドラッグストアでは車まで荷物を運んでくれるそうだ。おまけに、気をつけてなどと親切な言葉を掛けてもらえる。不道徳極まりないが、彼の外見からは誰も嘘だとは気がつかないだろう。  時々、電車の優先席に腰掛ける元気そうな人を見かけるが、気がつかずに腰掛けてしまう人もいるのではないか。特に外国人等は。駐車場でも同じことが言える。ただし、自分の風貌を逆手にとって確信犯的に常習的にやるのは珍しい。というか初めて聞いた。これが幼馴染でかなり気が合う友人なのだから僕の薬局の品のなさがよくわかる。ただもう少しだけ待てば彼も嘘つきではなくなる。正真正銘の当事者になっているだろうから。