BBキング

 仕事前と、仕事が終わって、どちらも薬局に一人でいるときに最近は、和太鼓の演奏やBBキングを聴いている。和太鼓はこの10年くらいの出会いだが、BBキングは僕の青春時代だからもう40年になる。ところが出会いと言っても、当時の僕にできることと言えば、1年に1枚のレコードを買うことくらいしかなかった。だからその1枚を後生大事に持っていたのだが、それから40年の間にまったく世の中が変化した。40年と言うより、むしろこの10年と言ってもいいのかもしれない。気がつかないうちにものすごいスピードで技術革新がなされたから、気がついたらとてつもなく便利な世の中になっていた。そのことをBBキングのおかげで気づかされた。  パソコンの前に腰掛け、クリック数回であの憧れのBBキングがブルースを奏で歌い始める。オランダやアフリカで行ったコンサートしかり、あらゆる年代のあらゆるコンサートを見つけ出し、楽しむことが出来る。時間と空間を簡単に越えることが出来るのだ。狭い薬局が時空を越えてコンサート会場になる。世界の歴代の突出したアーティストが、クリック一つで行列でやってくる。いわば感動の洪水でもある。  そのせいで、僕は素人のコンサートをほとんど聴くことがなくなった。かつては自分自身もそうだったように、突出した人たちの演奏に触れる間の穴埋めを素人の芸に求めていたが、現代ではそんな必要がなくなった。多くの音楽ファンにとっては、人生が一つくらいではとても間に合わないくらいの感動を簡単にパソコンから取り出せるのではないかと思う。いわば素人の演奏になど付き合ってはいられないくらい、傑作が待機しているのだ。人は残された家族の魂の中に生き続けるが、このままではせりふを変えて、「残されたパソコンの中に生き続ける」と言わなければならなくなる。