身の毛がよだつ

 身の毛もよだつような恐ろしい話を、どこにでもいるような謙遜で働き者の女性から3連発で聞いた。毎週、お母さんと一緒に漢方薬を取りに来て、ずっとお母さんに付き添ってくれている女性で、母思いの姿がごく自然に溢れ出ていて、とても好感が持てる女性だ。何かの切っ掛けで淡々と笑顔を交えながら話し出したのだが、その内容が世にも恐ろしい話なのだ。正確に書こうとして夕方の会話を思い出そうとするが、それだけで身の毛がよだちそうだ。 数年前、母方の祖母が、岡山市のある横断歩道を渡っていて車にはねられて死亡した。亡骸が家に連れて帰られたが、魂が帰っていなかったので、女性は車を運転してその現場に行き「おばあさん一緒に帰ろうな」と名前を呼んだらしい。すると一瞬のうちに体が重くなり、帰宅して亡骸に向かって「おばあさん帰ってきたよ」と言うと、これ又一瞬にして体が軽くなったらしい。  これも10年くらい前の話。一緒に暮らしていた祖父が亡くなった。葬式の日、女性はふと屋根を見上げた。すると死んだおじいさんが屋根の上で下を見ていたそうだ。おじいさんは何を見ていたのと僕が尋ねると、「自分の葬式を不思議そうに見ていた」と教えてくれた。  これは数年前のこと。職場の食堂である中年男性が腰掛けていた。その男性は遠くの病院に入院中だった。病院にいるはずで牛窓にいるはずがない。次の日男性が亡くなったと連絡があった。その時男性に話しかけなかったのと僕が尋ねると、「その人はとても自然な様子でそこに腰掛けていたから、別に何の不思議も感じなかった」と教えてくれた。  まだ同じような体験があるのと尋ねると、まだまだ沢山あるそうだ。決して冗談や嘘を言う人ではなくて、この話題自身母親から出てきたもので、お嬢さんは最初躊躇っていたが、僕とのもう10年以上患者としてのつき合いがあるから、上記の体験を話してくれた。僕は非科学的なことは一切信じないが、彼女を信じる。彼女が体験したことを信じる。嘘偽りなく教えてくれたことを信じる。 この辺りではその様な霊感がある女性を「拝み手」と言い、色々なことを拝んで貰って判断の参考にする風習がある。職業として成り立っていて、遠くから参拝する人が多い。ただその人達のほとんどは亡くなっているから、後継者がいない。そこで僕は「開業したら?」と提案した。笑いながら「そんなつもりはないです」と言ったが、珍しい才能を生かさない手はない。「産業が乏しい町だから何でも起業しなければ」と提案したが、勿論その気は全くない。霊感など全くない僕は拝み手になれそうにはないが、この卑屈な揉み手なら何かに生かせそうだ。