使命

 数日前のこと。  どう考えても分からなかった。どうして本人が訴えるほどの不快感が引き起こされたのか。胸が焼けて胃酸が逆流するくらいなのだから、何か胃腸に悪いことをしているはずだ。普通候補に浮かぶのは、タバコを吸って酒を飲んで、コーヒーを楽しんで、ストレスが一杯の生活なのだが。  僕より身長が高くて、横幅は倍くらいありそうだ。いくらでも食べて飲めそうだが、本人は健康に気をつけているから、そんなに過食ではないという。その上朝晩のウォーキングを続けているとも言う。タバコは健康に悪いからともう何年も前に止めていて、酒も缶ビールを時にたしなむ程度らしい。ストレスは仕事をしていないから無いと言う。見かけとは違って悪い習慣は全くないのだ。分からない、いくら考えても分からない。不快症状はとってあげれるが、原因を見つけておかないと治りにくいし、すぐに再発してしまう。そうなると申し訳ない。  いかつい格好でいかつい顔の造り、どう見ても御法度の裏街道が似合いそうな人だ。効かなければ文句言われそうだが、僕の問診もネタが尽きた。まあ、症状は抑えられるだろうからと観念して漢方薬を作った。会計をすました後、その人物が言った。「牛窓のサツマイモは美味しいか?」と。「場所によっては栗と間違うほどの甘いサツマイモがとれるところがあるよ、特に前島と師楽のが美味しい」と、焼き芋にはちょっとうるさい僕が答えると「そんなら、牛窓ショッピングに行って買って帰ろう」と言った。「焼き芋が好きなの?」と尋ねると「昼ご飯の後に毎日このくらいなのを二つずつ食べる」と両手で教えてくれたサイズは20cm近くあった。百貨店で買えば2つで1500円を超えそうな立派な奴と見た。これには驚いた「毎日そんなのを食べていたら胸が焼けて当たり前でないの、原因が分かった。もろ焼き芋ですよ」「そうかなあ、焼き芋食ったら大きなウンチが出て気持ちがいいで、あれは止めれん。まあ、漢方薬で治して」と焼き芋を止めるつもりはない。これではいくら漢方薬を飲んでも薬の方が負けて効くはずがないと思ったので、薬剤師の使命だと思って命がけで言った。「ややこしいものを食うな、可愛すぎるだろう」と。  今日まだ僕は生きている。