田舎者

 田舎者の僕は、思わず振り返り、彼が背負っている四角く大きなリュックを見つめた。そしてリュックに書かれている文字をわざわざ確認した。文字は瞬間だったので一部しか分からなかったが「ああこれがかの有名なウーバーイーツなのだ」と分かった。初めて実際に見た。
 やたらコロナでもてはやされていたから、当然ニュースなどでは何度も見ている。評価する声もあるが、マイナスの部分も多く露呈している。仕事柄、肉体派が多いのだろうけれど、僕が岡山駅近くで遭遇した彼もいい体格をしていた。職業にしているのか、副業程度かわからないが、あたかも競輪選手が自転車をこいでいるように力強かった。あのがっちりとした体格でこれを職業にするにはもったいなく、格闘技の世界から出てきたように見えた。その体格と背負っているリュックが絵になっていた。僕だったら恐らく、リュックが自転車をこいでいるように見えるだろう。
 田舎にいると、実際に目にしないものも多い。漢方薬を郵送している人と話をしていて、そういえば東京にだって30年近く行っていないことに気が付いた。東京から東は行ったことがないし、名古屋も40年、九州に至っては45年も行っていない。何十回も通ったのは、漢方の研究会が開かれる広島と神戸くらいだ。
 映像だけの知識で実際には見たこともないものだらけのなはずなのに、何とか生きていけるものだ。ほとんど不自由を感じたことがないのだから。むしろ知らないものの数だけ救われているのかもしれない。知らないものがいらないものである可能性を僕の鼻が嗅ぎ分けているようにも思えるから。知らないことも時には豊かなような気もしないわけではない。

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