感動

 その女性は、一日中僕ら4人の前を歩いて、電車やバスを巧みに乗り継いでその街を案内してくれた。おかげで、お願いしていた滞在時間8時間を効率的に使わせてもらった。その街に住んだことがない人間には到底出来ない業だ。観光スポットの数で言うと恐らく右に出るところがないその街を、まるでガイドさんのように上手に案内してくれた。  同行したかの国の女性3人のうち1人が思わず言った。「ワタシハ ホーチミンヲ オネエサンミタイニ アンナイスルコトデキナイ スゴイデス」と。ほぼ完璧な案内が印象深かったみたいだ。  どう見てもその街の人のように見えないその女性は、まだ十分田舎の匂いを残していて、いや田舎で暮らしていたままのようないでたちや心遣いで、その街の観光などよりよほど僕たちに感動を与えてくれた。帰りの新幹線の中でも、寮に着いてからでもその女性の話題のほうが圧倒的に観光より多かった。今月下旬、3年間の労働を終えて帰国する彼女達には、最高の思い出になったみたいだ。「ダイマンゾク」と何度も帰路に繰り返していたことで分かる。本当の満足とは対人で得られるもので、対物ではない。日本人の僕も、大役を押し付けて気楽に観光を楽しめるという幸運を与えてもらったが、それ以上に飾らない人の美しさと言うものに感動を覚え続けた一日だった。