あれは幻ではない。1秒にも満たない時間かもしれないが、その光景に僕の思考は十分ついていっていたのだから。これは日本中で多くの人の目に留まって大騒ぎになっているのではないかと慌てて家に帰ってパソコンを立ち上げたのだが、その話題は皆無だった。となるとあれは単なる流れ星だったのだろうか。今まで流れ星を見たことは何度もあるが、あんなに大きなものはないし、形が卓球のラケットみたいなのも見たことがない。最初はいつものようにほとんど線のように流れたのだが、消える寸前に大きくなってラケットのようになった。そもそもなぜか高度もいつも見ている星のものではなかった。もっと低いように思えた。飛行機と見間違えたかなと思うくらいの高度のように見えた。僕の頭の中では飛行機?流れ星?の二つが浮かんだのだが、家に急ぐ間に、ひょっとしたら人工衛星が大気圏に突入して燃え尽きたのではないかと言う新たな考えも浮かんだ。もっとも僕はその光景を見たことがないから、単なる想像でしかないが、飛行機でもない、流れ星でもないとなると、少ない知識ではそのくらいしか思いつかなかった。  夜空を眺めながらウォーキングをする利点は、何も考えないこと。無心と言ってもいいかもしれない。1日を終えたという安堵感もあるのかもしれないが、時折飛行機が通るくらいしか変化がないのがいいのかもしれない。その点朝のウォーキングとは異なる。そんな変化のないキャンパスに、星が飛べばすぐ気がつく。めったにないそんな瞬間に立ち会えるのが、夜空を眺めながら歩く意図しない楽しみかもしれない。