今年一番

 まるで俳優のような迫真の演技だ。あたかもそこに倒れている人がいるように思えてくる。舞台設定は、自分が脳梗塞か脳溢血で倒れた時を想定しているのだが、あたかも倒れているだろう人の肩を持ち、大きく揺さぶる格好をする。舞台なら抱きかかえて、頑張れの一言でもかけるのだろうが、彼は寧ろ逆だ。 「俺が倒れたときは嫁さんに頼んでいるんじゃ、頭を強く揺さぶってくれって」 「出血でもしていたら危ないじゃないの」 「違うよ、寧ろ命が助かっても体が不自由だったら面白くねえから、頭を揺さぶってとどめを刺してくれと頼んどるんじゃ」  これには参ったが、なるほどこういった手もある。人それぞれだから他人がとやかく言うことはない。後遺症を覚悟で生きたい人もいれば、完璧でないと意味を感じない人もいる。仮に命を救われても、それが価値観に合わなければより不幸になる。牛窓ならではの、漁師町ならではのジョーク?だと思うが、まだ始まったばかりだが、今年一番の面白いジョークだった。