漂白

 口を揃えて「勉強したい」と言うかの国の若い女性の中で、すでにしてきた女性が一人だけいる。通訳という仕事を得ているから大学にはいっていたのだろう。そこで彼女に確かめてみた。「○○さん、良く大学に行けたね?お家がお金持ちだったの?」と単刀直入に尋ねてみた。するとたどたどしい日本語でゆっくりと説明してくれた。しかし、以下の会話にはいる前に一瞬涙を我慢した。僕は見逃さなかったが。 「オカアサンハ、オカネナイカラ、ダイガクヘイッテハイケナイトイッタ。デモワタシ、ベンキョウシタカッタ、ダカラダイガクニイッタ」 「お金はどうしたの?」 「ギンコウカラカリタ」 「いくら借りたの?」 「15マンエン」 「15万円、良かったね、それならすぐに返すことが出来るわ」 「ヨカッタジャナイ タイヘン 4ネンデカエス」 「それはそうだね、向こうのお金だと凄い金額だもんね。でも日本で働けばすぐに返すことが出来るよ」  僕は嬉しかった。家庭の事情で勉強できなかった子達が、3年間日本で働けば、向こうで学校に行けるのだ。実際に多くの子達が国に帰り大学に行った。又日本の大学に入った子もいる。勿論経済的な援助など僕には出来ないが、もう一度日本に行きたいと思ってもらえる動機の小さな一つにはなれるような気がする。「オトウサン ノウギョウデス キカイアリマセンカラ カラダイツモツカレテイル」高速道から一面広がる緑に埋め尽くされた田圃を見ながら彼女が言った。ものが溢れ、捨てることでしか世の中が循環しない異様な国で、彼女たちと過ごす一時は汚れた僕の心を漂白してくれる至福の時間だ。