薄情

 微笑みが、笑いの一歩手前なのか、笑いを超越したものなのかは分からないが、いっさいそれらしき筋肉の弛緩を見せなかった人が、何度もこぼしてくれると嬉しいものだ。漢方薬を作っている方からするとしてやったりだ。そして治療も最終の仕上げに入ったことを意味している。 もし笑いも微笑みもなくした人が目の前にいたら、圧迫感は相当のものだ。職業的に繋がる必要がない人だったら逃げ出したくなるか、回避したいだろう。当たり障りがない距離をとりたくなるに違いない。  僕は運がいいのだと思う。本来的に持っている気性からすると、そうした人に対して寛容ではないはずなのだが、職業の故か、漢方薬という特殊な哲学を持った武器と巡り会えた故か、寧ろそうした人達のお役に立とうとする気持ちが常に充電され続けてきた。だから僕は本来的な薄情を、職業で穴埋めして貰い、日々の業務が罪滅ぼしになっている。本来なら懺悔の連続であるべき日常を、まともな行いに呼び戻して貰い、穴埋めが出来ていると思っている。職業が心の奧に潜んでいる原罪を救ってくれているのだと思う。 微笑みが絶えない彼は僅か数ヶ月前とはまるで別人だ。多くの薄情をこれで許して貰いたい。