カートン

 大きなトレーラーの運転席から降りてきて、外股で身体を揺らしながら大柄で赤ら顔の男が、それも迷彩服で薬局に入ってきたらびびってしまう。1年くらい前からしばしば来るようになった。愛想はすこぶる悪い。あるくすりを必要な数だけ注文して買っていく。毎回まるで判を押したような買い物風景だ。 ところがこの種の人間はどちらかというと僕の薬局は得意なのだ。正直な話、その逆の方が圧倒的に苦手としている。勿論仕事だから、その様な好みは出さないようにしているが、顔にはどうしても出てしまうのだろう、どちらかというと圧倒的に前者の方が多い。 昨日いつものように薬を取りに来たから、ちょっと話しかけてみた。何でそんなに強い痛み止めが必要なのか気になったから。大柄でがっちりした身体にどうも似合わないのだ。すると何故痛み止めが必要になったかの経緯を詳しく話してくれた。職業病なのだが、その職の人にしか分からない原因を教えてくれ、興味深く聞いた。その後、トレーラーの運転手ならではの色々なエピソードを話してくれ、彼の人柄を垣間見ることが出来た。色々面白い話はあったが、まず彼が吸う煙草の数は、毎日1カートン。僕はその単位がハッキリとは分からなかったのだが、要は10箱なのだ。思わず「200本?」と大きな声で聞き返した。どうしたら200本吸えるのかと思うだろうが、さすがプロは違う。煙草を吸い終わると、吸っている煙草から新しい煙草に火をつけるのだそうだ。渋滞時には必需品らしい。精神安定剤なのだそうだ。その2。真っ赤な顔をしているのに基本的には酒を飲まない。やはり大型の運転手だから気をつけているらしい。体調の悪い父親が離れて住んでいて、何かあったら駆けつけてあげないといけないからと真顔で言う。照れも見栄もない、当然という話しぶり。トレーラーは牽引する車と荷物部分の車が連結されているだけなので、発進したり止まったり、速度を変える度に後ろから突かれるようになり腰を痛めるらしい。又座席のクッションも嘗ての車は悪く、骨格には過酷だったらしい。「頭が良ければこんな仕事をせずに机の前に座っておれるんだけど」と言うが、この彼以外からでもよく聞くおきまりの言葉を言う人の顔は、おおむね誇りに満ちている。全く本心ではなく、寧ろ胸を張るときの枕詞なのだ。はち切れんばかりの胸を不器用に隠しているのだ。首から上で上手く生きていけれる人達を本心から尊敬したり、あこがれてはいない。 結局30分以上立ち話をした。お互い腰痛持ちとは言えない長い立ち話だった。外股が心を開いてくれた日になった。嘗て往復3時間かけてその薬を手に入れていたらしいが、こんな田舎にもあってとても喜んでいたらしい。昔からの薬局がどんどん消えていっている。薬は手に入らない、心の重荷は下ろせない。偉い人達にはこんな庶民のささやかな営みは分からないのだろうな。何処に住んでいても等しくお気に入りの薬局から薬を手に入れる権利はあると思うのだが。「薬」はやはりドラッグと読まずに「くすり」と読みたい。