アイスクリン

 あるテレビ局のディレクターが会いたいというので、僕は早速昔の楽譜を取りだしてギターに新しい弦を張り、埃がかぶったハーモニカをサニクリーンで光らせた。破れたジーパンを取りだし、カビ臭いTシャツに着替えいつでもカメラの前に立てる用意をした。これが僕の昔懐かしい土佐のアイスクリン、いやいやスタイルなのだ。  待つこと数時間、現れたのは若いディレクター一人。唄う薬剤師の取材かと思ったら、今混乱している医薬品の郵便販売について教えてくれとのことだった。折角「唄う白衣」と言うタイトルまで考えてあげていたのに無駄だった。  それでも数時間、時間を忘れるくらい話し込んだ。彼にとって恐らく収穫はなかっただろうが、僕はテレビ番組って、最初は一人の個人的な興味によって作られるのかと不思議な感覚を持った。作品にしか接することが出来ないので、意外と人間くさい発想で出来るのだと認識を新たにした。文系志望が薬剤師になり、医療系志望が文系の仕事についているのをお互い慰め合った。  話は変わるが、東海地方のある男性に漢方薬を飲んで頂いているが、彼のいとこがある有名な政治家で、今回の医薬品の郵便販売禁止の件について尽力して頂いた。多くの国民が反対の意思表示をしてくれたらしいが、そうした実力者の口添えは恐らく大きな力になっただろう。おかげで2年間今までのように僕の薬を飲んでいただけるらしいが、2年先は又禁止になると言う。誰の利益を求めて決められたことか分からないが、いつも置き去りにされるのは、病院、あるいは現代医療から落ちこぼれた人達だ。お金持ちや偉い人達の間でしか法律は決められないから、陽が当たらない人には永遠に陽は当たらない。そんな理不尽に昔ながらのアイスクリンが、いや薬局が孤軍奮闘しているのだが、なにぶんもう辞めていく世代が多いのだ。医療の狭間で苦しむ人に少しでも笑顔を取り戻してもらおうと頑張っているが、最近はこちらの顔が引きつるばかりだ。2年の間に本当に困っている人達のための決まりが出来ることを願っている。