濡れ手に粟の麓に蟻が這う。朝は暗い内から起きだして、右から左へ1日中。働けど働けど、蟻は蟻で蟻以上ではない。何を夢見て眠れと言う。冷たい空気と届かぬ嗚咽。季節はずれに目覚めた虫が、羽音一つで落とされる。教えられることも学ぶこともなく、迷い込んだ脇道。朽ちた道標に引き返す道も閉ざされる。正義はいつも屋根の上で寝そべって、隣のミケや隣のタマが猫じゃらし。500円分の正義は1億円分の正義には所詮勝てなくて、勝てなかった時点で正義ではなくなる。強いものが正義で、弱いものには正義はない。守られるものを喪失した蟻は頂からは見えない。風で舞い上がるビニール袋に隠れてしまいそうな1日では、空腹も満たせない。欠乏は気づかなければからっけつではない。比較は対象によって成り立つ。蟻は蟻の中にいていつまでも蟻なのだ。それでもいつか蟻が列をなして頂に立たんことを。