目標

 関東から突然来てくれた女性と話をしているときに、その女性と全く同じトラブルの女性が入ってきた。偶然県内の女性で何回も薬を取りに来ているので、親しみが沸いて我が家の中では珍しく○○ちゃんと名前で呼ぶ。  その○○ちゃんがとても嬉しそうな顔をして入ってきた。笑みがこぼれている。どんないいことがあったのかと思ったら、今日は1日中お腹が悪くなかったそうだ。それを絶対報告しようと来てくれたから体中で喜びを表していたのだろう。色白で、冷え性で、スリム、それに少しだけ心が優しすぎれば、1日中元気なんて至難の業だ。それが今日は100点に近かったのだから嬉しかったろう。その話を聞くだけで僕なんか嬉しくなる。2人のやりとりを聞いていた関東から来た女性を、○○ちゃんに紹介した。薬を作っている間2人で話をしていた。同じトラブルの人にあったことがないので、その機会が出来たことは、2人にとっても良いことだ。もっとも、2人とも僕の娘からは体験談を聞いているが、娘は今はスタッフだ。全く同じ立場同士の人と話すのは意義が深いだろう。それも、かなり克服できた人と、これから始める人の組み合わせだから、理想的だ。  お昼過ぎに来て、結局薬局が閉まる8時までいたが、その間、薬局の中にいた。薬局に色んな人が色んな訴えをしてくるのを見ていた。僕とおもしろおかしく会話し、薬を持って帰るのを見ていた。帰る前に彼女が印象を語ってくれた。彼女は8時間の間、とても安心してここにいたそうだ。彼女の住む街では、仕事は勿論通勤途中でもどこでも緊張しているらしい。常に競争原理が働いて、戦いのモードらしいのだ。飾らない人達と、飾れない薬剤師の奇妙なやりとりに驚いたかもしれない。権威も礼儀も何もない。あるのは、遠く関東の地から来た女性を、大切に思いやる心。僕の代わりに○○ちゃんがその女性に別れ際にかけてくれた言葉が最高のもてなしになった。過敏性腸症候群は青春の落とし穴。しかし、その穴に落ちた人だけが得られるものもある。他者をいたわる心、他者を傷つけないこと、謙遜であること。これらは本当はお腹以上に価値がある。ただ、見えるものに変えれないから、その価値に気がつかないのだ。その心を保ちながら、身体だけ元気にする。これが最近の僕の目標だ。