都市伝説

 今まで我が家で飼っていた3匹の犬の名前を妻が呼んでいる。勿論3匹とも亡くなってしまったから、妻が乱心しているのではない。愛すべき犬達の名前をつけてこの数日呼んでいるのは、ツバメの雛達だ。巣から落ちた雛を巣に戻してもすぐに落ちてきた。どうやら一番先に大きくなった雛が場所をとりすぎて落とされるみたいだ。その光景を見た娘夫婦が、巣の下にハンモック様のものを作ってあげたら、最初に落ちて死んだ雛の二の舞は全て防げた。ただ、餌を親鳥がやってくれるのか心配だったが、段ボール箱に入れて階段を上がったところに置いてやったら、律儀に親は餌を運んでくれた。いったん人間の臭いがついた雛は親は育てないなどと都市伝説みたいなものを信じていたから、その光景には救われた。娘夫婦が懸命に餌となるものを探していたが、1日でダウンしたから。
 夜は小さな箱のままリビングに入れてやる。ひょっと蛇がかぎつけて襲われたらあまりにも無残だから。それだけは避けてやりたいから、家の中で夜は過ごさせる。妻は手のひらに乗せて撫でてやったりしているが、ツバメ達は全く恐れない。まるで犬か猫みたいな関係が築かれている。野生の鳥がどうして人間を恐れないのか不思議だが、飼えば懐くのではないかと思わせるほどだ。野鳥を飼ったら違反らしいからそれは出来ないが、気持ちが通っているがごとく見えるのが不思議で仕方ない。おびえて逃げる素振でもするのかと思いきや、なんだかうっとりとして手のひらで3匹が休む。なかなか心休まるいい光景だ。
 今日一匹が巣立った。巣から出なく紙箱から。自然のルールの邪魔をしないで小さな命を救えるのが嬉しい。