食養生

 「割り勘だったら、もったいないから食べんわけにはいかんじゃろ!」と、僕には分からない理由で養生法を破ったことを自白した。  僕は意外と食事療法を押し付けない。自分が守れないようなことは要求しないし、そんなことしなくても健康になってもらえる方法を考える。ただ、時に厳格に守ってもらわなければ漢方薬を飲む意味もなくなるような病気もある。彼は運悪くその「時に」に当たる。  皮膚病では専門医も苦心する病気に襲われている彼は、2年前にまじめに取り組んでくれ本人はもちろん僕も満足のいく結果で終わった。僕のところに来たときにはもう皮膚科の治療を諦めていたから、お医者さんとは縁が切れていたが、あの改善振りを見たらお医者さんも漢方薬の実力を認めざるを得なかっただろう。そのくらいきれいになっていた。ところが1年位ご無沙汰していた彼がひょっこりやって来たから、不吉な予感はしたのだが、案の定再発していた。2年前に見せてもらったときほどではないが、一度きれいな皮膚を体験したら耐えられないくらいの症状だった。  一度治れば又同じように努力すれば治る。案の定今回は2週間で、いや、本人曰く1週間くらいでよくなり始めたらしい。2年前に治した経験があるから彼自身もこれで又治ると思ったらしくて、口が軽くなった。そのおかげで、再発した理由が分かった。2年前に治療を開始してからかなり厳格に僕の要求した食事療法を守ってくれた。大好きな、そして頻繁に通っていた焼肉を絶ったのだ。ところが僕と縁が切れても皮膚病が再発しなかったものだから、あの大好きな焼肉を解禁したらしい。その結果、半年位してからポツポツと皮膚病変が現れた。そう言えばせっかくギトギトギッチャンの顔から脂も消え、お腹も引っ込んでいたのに、元の木阿弥の手前くらいに復活している。「割り勘だったら、もったいないから食べんわけにはいかんじゃろうと言うけれど、向こうが払うといったら食べんのか!自分が払ったら食べんのか!」一度治してあげているから僕も強い。どのパターンでも腹いっぱい食べるに決まっている。僕は治療に協力しない彼に留めの一発を食らわせた。「いい加減な言い訳をして食養生しないのなら、第三者委員会に調べてもらうぞ!こりゃ、牛窓の巻き添え!」