徹底

 次女、三女と会うときは、その時間のほとんどが日本語教室になる。三女は英語が出来るから、少しは英語教室をやってもらおうと英語で話しかけたりしたものなら「オトウサン、ニホンゴデ オネガイシマス」と徹底している。貪欲なまでの勉強欲だが、「よい生活」を手に入れるというはっきりとした目標を持って来日しているから、嫌味には感じない。彼女達が属している日本語学校で、同じ国からやってきた中で日本語検定試験3級に合格したのは次女だけだった。他の人達は明らかに学生と言う肩書きで働きに来ているだけだから勉強などはなからやる気がない。でも2人は明らかに日本語マスターと言う目標を持ってやって来ていて、アルバイトも制限している。  分からない言葉を僕が口にすると二人はすぐにスマホを取り出して確認する。僕はスマホの画面なるものを昨日初めて覗いたのだが、ある仕掛けにとても驚いた。母国語と日本語を画面の上ですぐに変換できるみたいで、例えば漢字を指で画面に書くとすぐにその可能性のある漢字がいくつか並ぶ。そして僕が言った言葉を見つけることが出来なかったとき。「オトウサン、カイテクダサイ」と頼まれた。覗き込んでやり方を見ていたから僕も同じように画面の上に漢字を書いた。細い線で次女たちが書いていたから、ぼくも真似て爪で細い線を書いた。するとなぜか上手くかけない。と言うより爪だから横方向には上手く書けるのだが、縦には書けなかった。すると、三女が見ていて「オトウサン ユビデ カイテ」と言った。指の腹で書いてあんなに細い線が書けるものかと思ったが、やってみると不思議や不思議、細い線だった。  「オトウサン スマホカッテクダサイ ベンリデス」と言われても、語学勉強の為に自由を差し出したくない。そしてさしあたって日本語を使えれば何不自由ない生活が出来ている。指の腹でなぞって辞書になる魅力は大きいが、彼女達も言うようにスマホで調べたものは「スグワスレル」らしい。