矛盾

 両肩を上げると、いわゆるいかり肩になる。「現代はこうして暮らしている人が多いですよ。だから肩がこるんですな」と先生が講演の途中で言われた。僕はいからせた肩は思いつかなかったが、同じようなことは毎日感じていた。そして僕の場合は「力み」と言う言葉を使っている。「現代人の多くは毎日力んで暮らしている」と表現することがあまりにも増えたと自覚していた。同じことを先生が感じておられたので、少しは近づけたかなと思ったが、まだまだ何週も遅れて僕は走っている。  「アクセルを踏みっぱなし」ともしばしば表現する。ブレーキが下手とも言う。頑張りすぎとも言う。どの表現を使っても交感神経優位と同義語だ。休息の神経の逆、まさに戦うための神経だ。そこを四六時中覚醒させているのだから、筋肉はガチガチになり肩も凝る。  自ずと毎日の仕事の中で使っている漢方薬は、そっち系の薬草ということになる。ハーブという言葉を使うと最近ではあまりよくない印象があるが、結構気持ちをめぐらせる薬草や、落ち着かせることが出来る薬草を僕らも使っている。正に漢方薬と言う名のハーブだ。どこにでもある紫蘇の葉っぱや薄荷などはわかりやすいと思う。作っていても良い香りがして気持ちよくなる。  実は、いかり肩も、アクセルを踏みっぱなしも、ブレーキが下手も、頑張りすぎもすべて僕に当てはまる。と言うより僕自身だ。だから相談にやってくる人たちのことが手に取るように分かる。当然治し方も分かる。僕の負の経験を若者たちに繰り返してほしくないと言う思いが、僕の漢方人生をを支えてくれていると言っても過言ではない。行き着くところまで行き着いて僕が悟ったことなどを伝えられたらいいなと思っているが、行き着くところまで行き着くことは決して悪いことでもないと言う矛盾を僕自身も孕んでいる。  行き着くところまで行って悟った簡単な結論は「体力の保証があるときだけ全うできていた個性は、実はまことに頼りないもの」だと言うこと。