連戦連勝

 美人では無いけれど美人、利口ではないけれど利口、一所懸命ではないけれど一所懸命、お喋りだけど耳障りでない。そんな女性が僕の薬局に来る。当然この僕の評価を本人は知らない。今日もこの通りを演じて帰っていった。ごく普通の家で育ち、ごく普通の家に嫁ぎ、ごく普通の子供を育て、ごく普通の内職をして家計を助け、ごく普通にスポーツを楽しみ、ごく普通の価値観を持っている。ごく普通の真面目な部分を有し、ごく普通の崩れた部分を持ち合わせている。恐らくこの国は、この大多数のごく普通の人達のおかげで辛うじて崩壊するのを守られているのだろう。 もう結構長いこと僕の薬局に来てくれているが、最初に来たときの言葉を今だ忘れない。 「いつか来てみたかったんです」と期待されすぎのような言葉をかけてくれたのだが、5年以上頻繁に利用してくれているから、今だ期待を裏切ってはいないのだろう。家族のほとんどの持病や急性の疾患を確実にお世話できているから、辛うじて信頼を維持できているのだが、果たして連戦連勝がいつまで続くのだろう。ただ相性の良さってあるもので、よく効く人にはよく効くものだ。  今日彼女から面白いことを聞いた。必ずしも僕が人生の先輩として教訓を話すばかりとは限らない。人にはそれぞれの無尽蔵の引き出しがあり、面白い話を聞くことが出来る機会も又職業上僕には多い。出不精だが、情報は皆さんが一杯持ってきてくれる。  四国の高松出身の彼女のお父さんが、明治時代かと言いたいくらいの亭主関白なのだそうだ。いや仁先生の江戸時代と言った方がいいかな。家の中では絶対の権力を未だ保ち続けているらしい。香川県の患者さんで同じような内容を口に出した人がいたので、香川の男は封建時代か?と彼女に言うと、何でも香川は京都と関係が深くて松平家がなんとかなんとか言いだして、だから香川は関西弁だし、男がエライなんて未だ思っている人種が多いと言っていた。そう言えば最近訪ねてきてくれた愛媛出身の女性もほとんど関西弁だった。「私から見たら情けないやっちゃ」と父親のことを腐すが、その腐し方が使われた単語とは裏腹に又節度を微妙に保っている。上品でないけれど上品をもう一つ付け加えた方がいいかもしれない。  飾らない人が僕は好きだし、飾らなくても生きやすい世であって欲しいと思っている。飾ることすら出来ない人達が一杯いるのだから。飾りすぎて身を滅ぼす人が一杯いるのだから。外見も内面もあるがままがいい。外見も内面もあるがままでいい。