鳴り物入り

 見るからに嘗ての面影がなかったので家族にも尋ねてその人の言動が最近おかしいことを確かめた。痴呆がはじまったのだろうと思ったので病院を受診するように勧めた。後日処方箋を持って家族がやってきたので、処方された薬がアルツハイマーの薬だと分かった。2週間分出ていて1度目はそんなに変化があるようには思えなかったが、2回目の薬を飲み終えたころ、明らかに変化があった。無表情だったのが若干ではあるが笑みを浮かべるようになった。病院用の薬もいつも鳴り物入りで新発売される。奇跡でも起こるのかと言うくらいメーカーは宣伝するが、多くの場合、たいしたことはない。ただ彼の場合、鳴り物入りで発売されたアルツハイマーの薬が少し効いている。あれっ、効くんだというのが正直な感想だ。とにもかくにも、その方が人格の一欠けらでも回復してくれたことは嬉しい。多くの科学者の叡智が、1人の老人の自尊心を救った。