あかんねんで

 家に帰りたがるお母さんに、男性は「あかんねんで、もう生きられへんねんで」と言ったそうだ。お母さんは「そうか、あかんか、おまえと一緒やで」と応じたそうだ。記憶にまだ新しいから覚えていると思うが、今年2月1日、京都桂川の河川敷で男性はお母さんの首をしめた。自分も死のうとしたが死にきれなかった。  昼夜逆転認知症の介護と仕事が両立できなくて男性は仕事を辞めた。生活保護の給付を求めて福祉事務所を訪れたが失業保険の給付を理由に却下された。やがて失業保険が切れて、もはや家賃も払えず、事件前夜からお母さんを車椅子に乗せて、想い出深い京都の街を巡ったらしい。最後の親孝行として。この手で数時間後お母さんの首をしめることを決めていて、どれだけ辛かっただろう。涙で道路も見えなかったのではないか。  54歳の男性は承諾殺人の罪に問われたが、執行猶予の判決だった。裁判官が「被告人の絶望感は言葉ではあらわせれない」と判決文の中で言っている。介護疲れ殺人、悲しいニュースが多すぎる。いつ誰が同じ立場に立つか分からない。弱者が見捨てられる事例が多い。弱者は分断され孤立し、富めるものがますます連帯し新たなる階級を構築している。