太刀打ち

 ガチョウかコアラかカンガルーか何か忘れたが、ある日セールスが飛び込んできて、これを塗れば痛みが改善すると言ってサンプルを数個置いて帰った。僕は職業的に何でも疑ってかかるほうだから、熱心に説明してくれたが、上の空で聞いていた。がまの油でもあるまいし、医薬品でもないものを塗って痛みが取れるわけが無い。そもそも医薬品でもないもので効能効果を標榜するのはその時点で違法だ。違法を知りながら売り込みにくる厚顔さを別にしても、その会社を僕に紹介したのも薬局だと言うから困ったものだ。親切で言ってくれているのだろうが、僕はやはり科学に裏付けられたものでないと手は出せれない。  数日後、漢方問屋の専務さんが来ていつものようにパソコンを管理してくれていた。その時に彼がその小さなサンプルを見つけ、どうしたのですかと不思議な顔をした。と言うのは僕が健康食品(名前を出すのもいやなくらい胡散臭いものばかりだが)といわれる範疇のものを扱わないことをよく知っているからだ。そして僕がそのサンプルがある理由を教えてあげると「効かないですよ。マッサージするクリームですから、マッサージで気持ちよくなっているだけです」と教えてくれた。そしてその商品を扱っていた健康食品とやらの会社の一つがつぶれたらしい。それはそうだろう、嘘はいけない。いつかは見抜かれるだろう。  そう言えば首をひねって赤ちゃんを殺した人間のニュースを見た。どうしてこの程度のことが見抜けないのかと空恐ろしくなる。こんな胡散臭いことが見抜けなくて、総力を挙げて嘗てのように階級社会を作り出そうとしているやつらに太刀打ちできるわけが無い。そんな無防備な人たちの道連れはごめんだ。胡散臭いものに囲まれ窒息しそうだが、いつからこの国は、いやいや、もとからこの国は麗しくはないのだ。