不器用

 なんて言って入ってきたのか分からなかった。調剤室にいたのだがやたら大きな声で入ってきた男性に気がついた。何となく薬局に入ってくるときの挨拶とは違和感があった。声に聞き覚えはあるような気がしたが、その挨拶からは誰も思い浮かばなかった。  顔をのぞけると、時々買い物に来る職人だった。町内のあるお店に勤めている人なのだが、普段はもっぱら現場で工事をしている。今日も服装は普段通りの作業着なのだが手に似つかわしくないものを持っていた。請求書と領収書だ。そのお店につい1週間前トイレの不具合を修理してもらったから、その集金だと言うことはすぐに分かった。だけどその男性はそんな分かり切ったことなのに、何の工事か説明をした。そして金額を申し訳ないような言い方で教えてくれた。その物々しい言い方で僕は勝手にかなりの額を想像したのだが、1000円前後だった。使えなかったトイレが使えるようになって、便利さを痛感していたので、そのあまりの安さに驚いた。すると彼は、悪いと思ったのか値段の正当性を説明し始めた。僕は安い作業をさせてしまったことに気を使っているのに、彼は逆に取っている。そこは説明して理解してもらったが、なんてお金のもらい方が下手な人だろうと思った。恐らく仕事には経験を積んで自信を持っているのだろうが(買い物の時の雑談でそれは分かる)集金業務はほとんど子供の手伝い程度だ。そもそも彼がその様な仕事をしているのも初めて見た。不景気な時代だから一人が何役もこなさなければ中小企業はやっていけないのか、たまたまなのかは分からないが、その似合わなさがいい。スマートに着こなした服装で、スマートな受け答えなどやられたら、こちらが身構えてしまう。騙されようが無いくらい不器用なのがいい。