領域

 ある遺伝子の病気を宣告されたお孫さんのことで、おじいちゃん、おばあちゃんが相談に来た。現代のおじいちゃん、おばあちゃんはとても若いから、語感のようには受け止めることは出来ないが、どんな時代でも子や孫は無条件で大切なものなのだ。 遺伝的に問題がある病気を僕が何とかと言うのではなく、ある決断を強いられて判断に迷ってやって来たのだ。薬や手術で対処できる領域ではなく、奇跡しか解決をもたらすことが出来ないとしたら、どの様な医療の試みを家族として受け入れられるのだろう。そう言った相談だった。  こんな時何かのせいにして気持ちを紛らわせるしかないのだが、それを理性で懸命に制御しているから、正直に肉体は反応して、二人とも急にやつれていた。それでも一杯口から不安を吐き出してもらったら、自ずと求めてきた答えが出た。その行き着いた結論に3人で満足して1時間に及ぶ話を終えたが、少しの平常心とかすかな希望を得てもらえたと思う。  神の領域に足を踏み入れた遺伝子医療に一縷の望みを託しながらも、その未知なる故の不安に選択を迫られる。素人の知識が先端医療の実像に追いつくはずがなく、足を踏み込べきではなかったかもしれない医療に望みを託す。矛盾した気持ちをどの様に整理したらよいのか、判断基準を持たない素人は右往左往するだけだ。  孫の不憫を思い、自分たちの何処に原因があったのか答えを求め苦しむ。自分を否定することで許されるならいくらでも否定するだろう。無条件の愛の前で立ちすくむ夫婦に奇跡あれと願う。