青空

 青空の広がりと共に湿度がぐんぐん下がった。肌に触れる空気がさわやかになった。空気の質さえ変えてしまう威力を、調剤室からしばし呆然と見上げた。数日ぶりの空の青さは町並みの色彩をも鮮やかにし、自転車を漕ぐおばさんの表情さえ明るく見せる。  誰の上にも本来広がる青空だが、吸い込まれるような深さを見ることが出来ない人もいる。コンクリートに覆われた病室ではこの深さ、壮大さは味わえない。自然の力をもらわなければならない人こそ、その深さで覆い尽くして欲しい。大いなる力に包まれ、身体も心も癒して欲しい。むち打ち酷使した身体に安らぎを与えて欲しい。ベッドから降り立ち、光鮮やかな草原に誘って欲しい。  どれだけ多くの人工を尽くしても、青空の微笑み一つに勝てもしない。採りつくし、掘り尽くし、屍が空に落ちていく。一つ息をする度に農夫の腰は曲がり、犬が鳴く。この深い空を誰も奪えない。