距離感

 当時としては少し早かったのかもしれないが、中学校ではもうめがねをかけていた。近くしか見えない目をしていたが、心は遠くを見ていた。そのおかげで小さいことはあまり気にしていなかったように思う。そんなに好きな人もいなかったと思うが、嫌いな人もいなかったと思う。それが、青年になり、いわゆる大人になるに従って、遠くを見なくなった。今あるテーマを解決するのにきゅうきゅうとしだしたのだ。そうすると近くにいる人の欠点などがよく見える、いや良く見つけるようになり、嫌悪したり非難したりするようになる。近ければ近いほど欠点ばかりが目に留まるようになる。誰もそんなに人を非難できるほど完全無比な人格は備えていないのに、やたら非難するようになる。対象者がどんなにすばらしいものを持っていても、見えるのはその欠点ばかりになってしまう。適正な距離感がないのだ。あまりにも近くに位置して部分しか眺めないから、全体像がつかめないのだ。1歩も2歩も退いて全体を眺めれば、良い点が悪い点を消してくれるのに、退く余裕がない。等しく受け入れる度量が欲しい。何をどの様に訓練すればそれが出来るのか分からない、何に頼ればそれが出来るのか分からない。しかし、その能力が欲しい。