ベートーベン

日々の生活の中にもこんな感動がある。夕方夫婦で漢方薬を取りにきたかたがいる。ご主人の酷い肩こりで、調子がよかったから3月以来の来店だ。最近、ある製薬会社からDVDが見えるテレビをもらった。小さいのだけれど、調剤を待ってもらう間、映像や音楽を楽しんでもらえば、待たせていると言うプレッシャーがないのでこちらは気が楽だ。先週、ベートーベンの作品が数曲収録されたのを499円で買ってきて、店内で流している。僕は「運命」以外知らない。それもで出しのところだけだ。夫婦は70歳くらいの方で どちらも百姓をしているからごつい。態度もぞんざいだし、言葉も上品ではない。主人の漢方薬を作る為に調剤室に入り仕事をしていると、音楽に合わせて人の声が聞こえる。僕は偶然だれかの声がうまく重なったのだと思っていたが、やはり誰かがメロディーに合わせて歌っている。ガラス越しに覗いて見ると、奥さんが画面に釘付けになって口ずさんでいる。それも運命の後の何曲かの全てに合わせている。僕など聴いた事がない曲だが、奥さんは正確に口ずさんでいる。言っては悪いけれど、およそ教養などとは一番遠いところにいそうな人に見えるが、なんのその、素晴らしい教養だ。それもこれ見よがしではなく、自然に口からこぼれているだけなのだ。これには驚いた。でもその後とても嬉しくなった。皆、見えないところで多くをいただいているのだ。とても嬉しいではないか。皆が等しく多くをいただけばどれだけ素晴らしくて住みやすい世界になるだろう。そんな時代は来ないのだろうか。