薬剤師

 娘が勤めている薬局を、正月休みを利用して見学に行った。田舎にある総合病院の門前に位置する薬局だ。出来てまだ2年くらいだから新しく、きれいだった。門前薬局は往々にして小さな小屋みたいなのが多いが、さすがに総合病院の前とあって、大きな建物だった。ただ造りは一見してプレハブだと分かるし、娘も大きな雨が降れば浸水するといっていた。  僕は純粋に、日本を代表する大手調剤薬局チェーンのノウハウを教えて欲しかった。どんなスタッフがいて、どんな機械を使い、どんな流れで薬を作り、どのように患者さんを指導しているか。ハードもソフトも何でも知りたかった。ほとんど物色といってもいいだろう。僕はあらゆる知覚神経を動員して、滅多にない機会を生かすべくかぎまわった。すぐに生かせるようなノウハウは余り見つからなかったが、将来導入しても良さそうな設備は勉強になった。  それよりも一番驚いたのは、待合室に腰掛けが30個並んでいることだ。それが全部埋まることも多いと言う。5人の薬剤師がフル活動でそれでも患者さんを待たせてしまうらしい。法律で薬剤師が作ってもよい1日の枚数を辛うじて下回っているけれど、時によっては限界を乞えているのではないかと思う。昼食が3時から、遅ければ5時頃になることで容易に想像がつく。そしてこのハードな薬局を回しているのが、26歳の薬局長を筆頭に、20歳代前半の薬剤師ばかりらしい。写真を見せてもらったが、それこそどの子も、僕の子供たちの年代だ。彼らが休むまもなく働いていることを想像すると、目頭が熱くなる。急速に進展した分業を支えているのは、彼ら彼女ら若い薬剤師たちだ。経験が少ない分知識はまだまだだろうけれど、純粋な心で患者さんの心を少しでも癒してあげれば、それで十分貢献している。若さゆえのひたむきさは、かならず患者さんの心を打つ。それが証拠に、単なる訪問者の僕にも、すでにその町に受け入れられている娘が分かったから。旧知の間柄のように娘に親しく歩み寄ってくる地元の人が多かった。  ひたむきはまぶしい。