一人

 何年か前に、漢方薬を服用していただいている女性に大道芸の面白さを教えてもらって、チャンスがあれば足を運ぶようにしている。ただ僕の住んでいるところの環境から言えば、福山のバラ祭りと今日行った高松の大道芸大会くらいしか大きな大会はない。時々散発的に小規模なものも行われるが、それを見つけるのは難しく知らないことのほうが圧倒的だ。
 何年か通っていると見たことがある芸人が増えてきた。毎回内容を変えるというわけにも行かないみたいで、ほとんどが再放送だ。初めて見る芸は新鮮だが、先が読めるものは感動も半減だ。実力ある芸人を集めるのは難しいのか、よくお会いする人が出来てきた。
 同じことを繰り返したくなかったので、通訳を介して大道芸を見てみたい人、大道芸が好きな人だけ手を挙げてと言っていたのに、高松港に着いて玉藻公園に入ったときに開口一番「オトウサン 花 ナイ」だった。通訳がいなかったので僕も突き放すように「松 綺麗」と言ったが、かの国の人間は綺麗に揃えられた松には関心がないらしい。「ベトナム アル」と、かの国にも松があることを訴えるが、剪定されていない松だとは、彼女達の様子を見ていて分かる。ただ、あるだけなのだろう。
 花へのこだわりは強く、大道芸を見るために移動するたびに「花 ナイ」と繰り返し、いかにもしんどそうに歩く姿を見て今日もまた、あるフレーズが頭に浮かんだ。何年連続で浮かんでくる言葉だろう。「一人で来れば良かった」

悲鳴

 見かけ上は僕の1.5倍くらいの体格だから、僕など到底挑戦すら出来ないような重いものを軽々と持って薬局の中にはいってきてくれる。僕の薬局は必ず毎朝、結構な量の漢方薬が問屋さんから届くから、彼の力強さは毎日見せつけられ、ほとんど僕など羨望の眼だ。見かけは1.5倍でも実質は10倍くらい僕よりパワフルなのではないかと思う。持って生まれた素質か、鍛えられたのか分からないが、僕といえば、筋骨の衰えとともに人生の質が落ちていくのをまざまざと実感している常日頃だ。
 そんな時に珍しく彼の弱音を聞いた。見ても分かった。今朝荷物を持ってきてカウンターの傍に置くや否や、僕がしばしばやるように腰を押さえながら背伸びをしたのだ。腰か背中の筋肉を緩めようとしているのだ。そして口からでた弱音が「腰が痛い」だった。僕が彼と同じことをしたら腰が痛いとは言わない。恐らく「腰がつぶれた」だろう。僕は彼の悲鳴を聞いた事がなかったので、原因に興味があった。そこで「どうして腰が痛いの?」と尋ねてみると今のシーズンは新米がとれて、田舎から送ってくるケースが多いそうだ。お米はほとんど30kgらしいから、それをいくつも運ぶことによって腰をやられているみたいだ。ふるさとの愛、親の愛を運ぶのは、腰の痛みに悲鳴を上げている人達なのだ。

2万倍

 「東京電力は福島第1原発の汚染水浄化後の処理水について、敷地内のタンクで保管する約89万トンのうち約8割の約75万トンで、トリチウム三重水素)以外の放射性物質の濃度が国の排水基準値を上回っていたことを明らかにした。東電は処理水の再浄化を検討しているが、予定外の設備の新設や増設などが必要になり、廃炉コストも増大する可能性がある。・・・・・・・・しかし今回の東電の発表によると、処理水計約94万トン(20日現在)のうち約89万トンを分析した結果、トリチウム以外で排水基準値を下回るのは約14万トンで、約75万トンは超過すると推定される。基準値超えの中には半減期が約30年と長く、体内に入ると骨に蓄積しやすいストロンチウム90も含まれており、サンプル分析では最大で基準値の約2万倍の1リットル当たり約60万ベクレルが検出された。」

 おいおい、この水を海に捨てようとしているのか。そもそも国の基準などと言うものも、作為的に決められているだけで安全を保障するものではない。それをして尚2万倍の放射性物質が含まれている。最早殺人兵器が、林立したタンクだ。あれが何かの拍子に壊れたら、2万倍の放射性物質が野に放たれるのだ。いよいよ物は食べれなくなり住めなくなる。口から入れて内部被爆した人たちの命を縮め、多くの人を死に追いやるのは必定だ。と言うことは何百万人の人の命を縮めるのだろう。どうしてそんな重大事故を起こしたやつ等が幸せに暮らしているのだ。被害者が苦しみ、加害者はのうのうと幸せに生きている。それでいいのか。2万倍の速さで車を運転して無罪放免か。2万倍の見積もりを出して通るのか。2万倍長く生きることが出来るのか。2万倍多く食べられるのか。2万倍知識が増えるのか。ふるさとが2万倍遠かったら帰省するのか。2万倍重いランドセルを背負うことが出来るのか。
 2万倍と言うものをそれぞれが想像すべきだ。
 

  

眠気

 日中に眠気を感じる人は、アルツハイマー病を発症するリスクが高い可能性があることが、米ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院メンタルヘルス科准教授のAdam Spira氏らによる研究から示唆された。平均年齢60歳の男女123人を対象としたこの研究では、日中の眠気がある人では、眠気のない人に比べてアルツハイマー病に関与するとされるアミロイドβと呼ばれるタンパク質が脳内に蓄積する確率が高いことが分かった。

 これはやばい。日中の眠気などしょっちゅうだ。だから僕にはコーヒーとユンケルは欠かせない。さすがにユンケルは1日1本までと決めているが、コーヒーは2杯飲むことのほうが多い。どちらもカフェインの働きを期待して飲むのだが、時にのどが渇いた時に飲むこともある。僕は水を飲む習慣がないから、水分代わりに飲むことが多い。その意味ではユンケルは内容量が少なすぎるが、わずか20ccでも喉を通したいときがある。その上で若干の覚醒作用があれば一石2鳥だ。
 僕はカフェインで誤魔化しているが、日中眠いタイプだ。アミロイドβとやらが次第に溜まっているのだろうか。だからアンドロイドとアンドロイドの違いが分からないのだ。携帯?ごときにややこしい名前をつけるな!

表現

 それはないだろう。本庶佑先生のノーベル賞受賞の感想を述べていた人が「本庶先生は雲の上の存在」と表現していた。そんな表現を使われると僕らに使える言葉はない。表現の仕様がないではないか。何故なら「雲の上」と表現した男性が、東京大学の名誉教授なのだから。
 先にノーベル賞を受賞された山中先生が、今でも月に1度くらい本庶先生を訪ねるらしい。その時は山中先生は直立不動らしい。山中先生をして、そんな態度をとられたら、僕ら凡人は目の前にしたらどんな態度をとればいいのだろう。
 そこで僕は考えた。僕ら庶民が本庶先生を表現するときに成層圏の人」と言い、目の前でお会いするときは「死んだ振り」とてもお相手できるものではない。改めて学者っていいなと思った。福島の事故でやたら学者面した人間が出てきて、政府に気に入られるようなことばかり言った記憶がまだ鮮烈だから、一概に信用していない、と言うか嫌悪感さえ持っていたが、やはり芯が通っている人は見ていて気持ちがいい。そういった人になかなか遭遇できなくなったが。

 

無心

 深層心理を覗いたような気がしたが、そんなことはないと思えるから、深層心理もあてにはならないのかもしれない。
 僕は行ったことがないが、昨夜の僕の夢の舞台は競馬場だった。走る馬の雄姿を見るのかと思ったら、何故か分からないが、スタンドではなく、建物の外にいた。仕切られた大きな部屋は、テーブルなどで思い思いに缶コーヒーを飲むような設定だった。そこに僕がいた。そしてある男性もいた。その男性は、月の終り頃になると5000円貸してと言って来る。固い職業についていたのに酒と博打で全てを失った人だが、いまだ酒は止められないで、月末には金が底をつき、無心に来るのだ。最近酒を飲んで薬局の営業中に無心に来たから貸さなかったのだが、その後しらふでやってきた。謝っていたが、結局は無心なのだ。前回の酒を飲んでの乱入があったから「もう貸さない」と言うと、「そんなことを言われな」と珍しく強い口調で答えた。恐らくすぐにでも酒が飲みたかったのだろう。
 僕は幼馴染だし、2回彼が法務局に長期出張に行った経歴があろうが、結構気が合うから懇意にしているが、今までに聞いた事がない語調だった。吉本新喜劇も負けそうな面白い男性の意外な反応に驚いたが、それだけ余裕を失っているのだろう。その時の不可思議な彼の反応が、深層心理では危険な人物になっているのだろう、夢の中で結構恐怖を感じたから。
 目が覚めてからも、自分では判断しかねた。夢の中の彼が現実に近いのか、逆を連発する彼が近いのか。

孤軍奮闘

 出来るわけないじゃろう。パソコン関連では100%依存している漢方問屋の専務さんでもなかなか出来なかったのに。ましていつもの事だが、どうして大企業のお客さん相談室はこうも電話に出ないのだろう。録音された女性の声が延々と続き、結局専務さんは40分待ってくれてようやく係りの人につながった。貴重な時間をただ電話を待つだけに使わせて申し訳ない。電話口にいる人間の心など、録音された声を延々と流すことの出来る企業にとっては想像出来ないのだろう。僕にとってはクロネコヤマト、お前もかと言う心境だ。
 毎日クロネコヤマト漢方薬を届けているが、その送り状の印刷様式が11月から変るらしい。あまり理解はしていないのだが、今までパソコンの中にインストールされたものから、どこかのサーバーにあるソフトにシフトするらしい。何でそれが改善になるのかよく分からないが、要は今のままでは僕のパソコンからは送り状を印刷できないってことだ。それでは僕は多いに困る。そこでその作業をやってもらうために急遽専務さんを呼んだのだ。勿論彼なら確実に出来るし、事実やってもらった。僕はクロネコヤマトの所長から「皆自分でやられていますよ」と言われていたから、専務さんならすぐ出来ると思っていたが、いろいろなクロネコの不親切な改訂のために結構戸惑ったらしい。そして彼が言った言葉は「簡単ではないですよ」だった。
 僕みたいな機械音痴が全国には一杯いると思うが、僕みたいに助けてくれる人がいるのはまだいいが、孤軍奮闘している人も多いのではないか。便利と不便が背中合わせ世代には「うっとうしいことじゃ」