質問

 毎回同じような質問をされるが、上手く答えられたことが無い。出来れば何も質問せずにさっさとやって欲しいのだが、取り返しがつかないものだから慎重になるのだろう。  僕は散髪をしてもらうのが好きではない。学生時代4年間1度も散髪をしなかったくらいだから、いわばどうでもいいのだ。それなのに、散髪屋さんに行くたびに「どうしましょうか?」と必ず尋ねられる。どんな髪形でもいいから「お任せします」と言うのだが、必ず具体的な答えを求められる。ただその具体的な言葉を僕は持っていないから、口ごもると相手は「前髪は?後ろは、耳が出るか出ないか?」などと聞いて来る。「はい」とか「ふん」とか分けの分からない返事をするのだが、それからは物事が進んでいく。結局は向こうが提案するのを素直に受け入れているだけなのだが。  先日も久しぶりに散髪屋さんに行った。この何年も1000円の散髪屋さんに行っている。そこで又若い男性店員さんに同じ質問をされた。又かと思いながら、歯切れの悪い返事をしていたら彼が「伸びたやつを短くすればいいんですね」と言った。僕の答えに痺れが切れて言ったのではない。悪意は感じなかったから。恐らく彼もまた僕みたいなこだわりのない人間の散髪にてこずっていたのかもしれない。僕はその言葉を聞いて初めてしっくりと来る言葉だと感じた。そこですぐに「そうそう、その通り」と感動気味に返事をした。やっとこれで次回から、髪を切る前のつまらないやり取り、相手によってはバトルから解放される。どうしてこの言葉を思いつかなかったのだろうと思うが、順番が僕の一つ前の若い客のように、完成したかと思えば又なにやら注文をするということを数回繰り返したこだわりの客もいるから、簡単に「伸びる前に戻せばいい」などとは言えないのだろう。それにしても僕の前の若者、あの顔で、それも1000円の散髪屋さんで、あれだけ注文を出すか。「元、取りすぎじゃろ~」

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