お土産

 その朝、テレビでおはぎと牡丹餅の違いを勉強したばかりだったのだが、結局妻が夢路と言うお菓子屋さんで買ったのは、その店でいつも買う定番のお菓子だった。僕は数年に一度くらい妻について入るだけだが、なかなか店員さんが教育されていて、感心した。わざとだろうけれどわざとらしくなくとても丁寧だった。声も大きくて分かりやすく、お勧めの商品を理由と共にさりげなく紹介していた。なにやら中秋の名月の時に食べるお菓子?お餅?と言うものがあって、その習慣がない我が家などは、知識を得て、買おうかと思ったほどだ。ただ中秋の名月がいつか分からないから、興味はそこまでだったが。  店から出たところで、あまりにも印象がよかったので妻に「感じがいい店員さんじゃなあ!」と正に言おうとしたところで背後から「ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」と声を掛けられた。無防備なところに突然言われたので驚いたが、「いらぬことを言ってなくてよかった」と思った。ただ、今思えば言っていた方が良かったかな。  そのお店は隣町に工場があるのだが、いつの間にか立派なお菓子屋さんになっていた。たぶん僕ら世代の人が頑張って、町の小さなお菓子屋さんから、何軒も支店を持つ店にしたのだと思う。我が家などは、おみやげ物にしばしば使いとても重宝している。出来ればこれが牛窓のお店で、牛窓名物ならもっと嬉しいのだが、牛窓何やらと言う商品は作ってくれているものの、牛窓には店舗はない。  お菓子とパンが似て非なるものだと知らなかったので、懇意なパン屋さんに牛窓名物のお土産を作ってくれるように頼んだことがある。これさえ持っていけば相手に喜ばれるようなもの。そんな一品が欲しい。例えば北海道の「ひどい恋人」とか、京都の「八つ当たり」とか、名古屋の「WE LOW」とか。