分相応

 電話の向こうで、どの様な表情をしているのかと思う。務めて冷静に話してくれてはいるが、恐らく顔はゆがんでいるのではないか。服を着替えるだけでもからだが疼くといい、じっとしていても息がしにくいような倦怠感だとも言う。とても頑張りやさんだから、恐らくその訴えはどちらかというと控えめなのだ。打たれ弱い人だったら大声で苦痛の声を上げていても不思議ではない。  不調を知られたら仕事に差し障るからといって職場では隠している。あれだけの痛みを隠すことが本当に出来るのだろうかと思うが、彼女はやりきっているのだろう。今はやりの派遣切りにもあって、毎日が恐らく崖っぷち。僕に出来ることは何なのだろう。勿論その体調を少しでも良くすること、それも許される経済の範囲で。  電話を置いた後、お金が一杯欲しいと思った。本当に必要な薬を必要な人達に飲んでもらえるお金が欲しいと思った。お金をもらわなくても薬を飲んでもらえるくらいの大金持ちになりたいと思った。多くを持てば多くを助けることが出来る。多く持たないから、分相応のことしかできない。如何にも貧弱な分相応しかできない。その道に興味も才もなかったから、大きな成功も大きな失敗もなかったが、不幸を丸まる引き受けれるほどの財がないのは、資格なしと言うところだろう。