手間暇

 製薬会社がシュレッダーなるものをくれた。ただでくれたのだからそんなに高いものではないだろう。一時、事故の報道が続いた家庭用の小さなものかもしれない。この投入口に幼い子が指をつっこんだのかと想像すると、紙を巻き込む為に回転している機械のノイズが不気味だ。  その不気味な音とは裏腹に、機械自体はとても便利だ。処方箋など外部には漏らせれないものの廃棄には打って付けだ。はさみを手が痛くなるほど使っていたが、その作業から解放される。思いもかけない副産物は、薬を郵送するときのクッションが毎日作られると言うことだ。今までは燃えるゴミで出していた書類や書籍が全部クッションに生まれ変わる。少しでも燃やすのが減ればそれに越したことはない。リサイクルとまでは言えないが、もう1回だけ、紙に命を与えられることが嬉しい。ほとんど自己満足の世界かもしれないが。  マル秘をずっと抱えておくのはしんどい。どこかで処分しておかなければ落ち着かない。マル秘なんて無い生活が理想だが、社会のシステムが許さない。ただ、消滅は忍びない。深く関わったものを、簡単に消滅させるのは忍びない。シュレッダーの良いところは完全に消滅させるのではないことだ。目の前から捨てるとか焼却するとかで存在を一気に消さないのがいい。細かく断裁する過程でまだ存在しているのがいい。関わりの余韻が残るのがいい。過程が貧弱で、とんでもない結果ばかり見せつけられている昨今、ちょっとの手間に気が安らぐ。手間暇を目の敵にして克服してきた人間が、手間暇に救われているなんて。